本稿は、位相空間論を学ぶ学生に向けて、空間構造の階層性(距離 $\implies$ 一様 $\implies$ 位相)と、その逆方向への遡及(距離化定理、一様化定理)を完全に自己完結的(self-contained)に解説するものです。証明においては論理の飛躍を極力排除し、なぜその近縁を選ぶのか、なぜその連続関数を構成するのかという「動機付け」を含めて記述しています。
0. 準備:フィルターと擬距離
一様空間の議論を厳密に行うため、基盤となる概念を定義します。
定義: フィルター・コーシーフィルター・完全正則性
- フィルター (Filter): 集合 $X$ の部分集合族 $\mathcal{F}$ が、(1) $\emptyset \notin \mathcal{F}$, (2) $A, B \in \mathcal{F} \implies A \cap B \in \mathcal{F}$, (3) $A \in \mathcal{F}$ かつ $A \subseteq B \implies B \in \mathcal{F}$ を満たすとき、$\mathcal{F}$ をフィルターと呼ぶ。
- コーシーフィルター (Cauchy filter): 一様空間 $(X, \mathcal{U})$ 上のフィルター $\mathcal{F}$ であり、任意の近縁 $U \in \mathcal{U}$ に対して、ある $F \in \mathcal{F}$ が存在して $F \times F \subseteq U$ を満たすもの。これは「点列のコーシー性」を一般化した概念である。
- 全有界 (Totally bounded): 一様空間 $(X, \mathcal{U})$ において、任意の近縁 $U \in \mathcal{U}$ に対して、有限個の点 $x_1, \dots, x_n \in X$ が存在し、$X = \bigcup_{i=1}^n U[x_i]$ となること。ここで $U[x] = \{y \in X \mid (x, y) \in U\}$ である。
- 擬距離 (Pseudometric): 距離関数の公理のうち「$d(x, y) = 0 \implies x = y$」の条件を外したもの。異なる2点間の距離が0になることを許容する。
- 完全正則空間 (Completely regular space / Tychonoff space): 任意の閉集合 $F$ と $x \notin F$ に対し、連続関数 $f: X \to [0, 1]$ が存在して、$f(x) = 0$ かつ任意の $y \in F$ で $f(y) = 1$ を満たすような空間。
1. 厳密な基本概念の公理的定義
距離空間 (metric space)
集合 $X$ と関数 $d: X \times X \to \mathbb{R}$ の組 $(X, d)$ であり、任意の $x, y, z \in X$ について以下の3つの公理を満たすもの。
- 正の定値性: $d(x, y) \ge 0$ かつ $d(x, y) = 0 \iff x = y$
- 対称性: $d(x, y) = d(y, x)$
- 三角不等式: $d(x, z) \le d(x, y) + d(y, z)$
一様空間 (uniform space)
集合 $X$ と、直積集合 $X \times X$ の部分集合族 $\mathcal{U}$(近縁のフィルター)の組 $(X, \mathcal{U})$ であり、以下の5つの公理を満たすもの。
- 上方閉性: $U \in \mathcal{U}$ かつ $U \subseteq V \subseteq X \times X \implies V \in \mathcal{U}$
- 有限交叉性: $U, V \in \mathcal{U} \implies U \cap V \in \mathcal{U}$
- 対角線の包含: 任意の $U \in \mathcal{U}$ について、$\Delta = \{(x, x) \mid x \in X\} \subseteq U$(すべての点は自身と「近い」)
- 対称性の一般化: $U \in \mathcal{U} \implies U^{-1} \in \mathcal{U}$(ただし $U^{-1} = \{(y, x) \mid (x, y) \in U\}$)
- 推移性(三角不等式の一般化): 任意の $U \in \mathcal{U}$ に対して、ある $V \in \mathcal{U}$ が存在し、$V \circ V \subseteq U$
(ただし $V \circ V = \{(x, z) \mid \exists y \in X, (x, y) \in V \land (y, z) \in V\}$。これは「距離が半分の近縁」をとる操作に相当する)
※ $\mathcal{B} \subseteq \mathcal{U}$ が $\mathcal{U}$ の**基本近縁系 (fundamental system of entourages)** であるとは、任意の $U \in \mathcal{U}$ に対してある $B \in \mathcal{B}$ が存在し $B \subseteq U$ となることを指す。
位相空間 (topological space)
集合 $X$ と、$X$ の部分集合族 $\mathcal{O}$(開集合系)の組 $(X, \mathcal{O})$ であり、以下の公理を満たすもの。
- $X \in \mathcal{O}$ かつ $\emptyset \in \mathcal{O}$
- $O_1, O_2 \in \mathcal{O} \implies O_1 \cap O_2 \in \mathcal{O}$
- 任意の添字集合 $\Lambda$ と $\{O_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda} \subseteq \mathcal{O}$ について、$\bigcup_{\lambda \in \Lambda} O_\lambda \in \mathcal{O}$
2. 誘導と距離化に関する定理
定理1: 距離空間から一様空間・位相空間への誘導
定理
距離空間 $(X, d)$ に対して、$U_\epsilon = \{(x, y) \mid d(x, y) < \epsilon\}$ と定義する。このとき、$\mathcal{B} = \{U_\epsilon \mid \epsilon > 0\}$ はある一様構造 $\mathcal{U}_d$ の基本近縁系となる。
さらに、一様構造 $\mathcal{U}_d$ から自然に定まる位相は、距離 $d$ が直接定める位相 $\mathcal{O}_d$ と完全に一致する。
証明
Step 1: $\mathcal{B}$ が一様構造 $\mathcal{U}_d$ を生成すること
$\mathcal{U}_d = \{U \subseteq X \times X \mid \exists \epsilon > 0, U_\epsilon \subseteq U\}$ と定義し、これが一様空間の公理を満たすことを確認する。
(1) 上方閉性: 定義から自明である。
(2) 有限交叉性: $U, V \in \mathcal{U}_d$ とする。定義よりある $\epsilon_1, \epsilon_2 > 0$ が存在し $U_{\epsilon_1} \subseteq U$ かつ $U_{\epsilon_2} \subseteq V$。$\epsilon = \min(\epsilon_1, \epsilon_2) > 0$ とすれば、$U_\epsilon \subseteq U_{\epsilon_1} \cap U_{\epsilon_2} \subseteq U \cap V$ となるため、$U \cap V \in \mathcal{U}_d$。
(3) 対角線: 任意の $\epsilon > 0$ に対し、$d(x, x) = 0 < \epsilon$ であるから、すべての $x$ について $(x, x) \in U_\epsilon$。よって $\Delta \subseteq U_\epsilon$。
(4) 対称性: 距離の対称性 $d(x, y) = d(y, x)$ より、$U_\epsilon = U_\epsilon^{-1}$ である。任意の $U \in \mathcal{U}_d$ に対して $U_\epsilon \subseteq U$ なる $\epsilon$ をとれば、$U_\epsilon = U_\epsilon^{-1} \subseteq U^{-1}$ となり、$U^{-1} \in \mathcal{U}_d$。
(5) 推移性: 任意の $U \in \mathcal{U}_d$ に対し $U_\epsilon \subseteq U$ なる $\epsilon > 0$ をとる。ここで $V = U_{\epsilon/2}$ とする。$(x, z) \in V \circ V$ とすると、定義よりある $y \in X$ が存在し $(x, y) \in V$ かつ $(y, z) \in V$。すなわち $d(x, y) < \epsilon/2$ かつ $d(y, z) < \epsilon/2$。三角不等式より $d(x, z) \le d(x, y) + d(y, z) < \epsilon$。よって $(x, z) \in U_\epsilon$。ゆえに $V \circ V \subseteq U_\epsilon \subseteq U$ が成立する。
Step 2: 誘導される位相の一致
距離空間における開集合の定義は、「$O \in \mathcal{O}_d \iff \forall x \in O, \exists \epsilon > 0, B_d(x, \epsilon) \subseteq O$」である($B_d(x, \epsilon)$ は開球)。
一方、一様空間から誘導される位相 $\mathcal{O}_{\mathcal{U}}$ における開集合の定義は、「$O \in \mathcal{O}_{\mathcal{U}} \iff \forall x \in O, \exists U \in \mathcal{U}_d, U[x] \subseteq O$」である。
ここで $U_\epsilon[x] = \{y \in X \mid (x, y) \in U_\epsilon\} = \{y \in X \mid d(x, y) < \epsilon\} = B_d(x, \epsilon)$ である。したがって、基本近縁系 $\mathcal{B}$ を用いることで、両者の条件は文字通り完全に同値となり、$\mathcal{O}_{\mathcal{U}} = \mathcal{O}_d$ が導かれる。 $\blacksquare$
定理2: 一様空間の距離付け定理
定理 (Weil / Alexandroff-Urysohn)
一様空間 $(X, \mathcal{U})$ の一様構造が、ある単一の距離関数 $d$ によって誘導されるものと一致するための必要十分条件は、その誘導される位相がハウスドルフ空間であり、かつ一様構造が**可算な基本近縁系**を持つことである。
証明
必要性: 定理1より、距離から誘導された一様構造は $\mathcal{B} = \{U_{1/n} \mid n \in \mathbb{N}^+\}$ を可算な基本近縁系として持つ。また、距離空間は常にハウスドルフ空間である($x \neq y \implies d(x, y) = r > 0$ であり、$B(x, r/2)$ と $B(y, r/2)$ は交わらない開近傍となる)。
十分性: 可算な基本近縁系 $\{B_n\}_{n=1}^\infty$ を持つとする。
(1) 急速に縮小する近縁列の構成: 帰納的に、部分集合の列 $\{U_n\}_{n=0}^\infty$ を構成する。$U_0 = X \times X$ とする。$n \ge 1$ について、$U_{n-1}$ が定まったとき、推移性の公理を繰り返し適用することで、$V \circ V \circ V \subseteq U_{n-1} \cap B_n$ となる近縁 $V$ が取れる。対称性の公理を用いて $U_n = V \cap V^{-1}$ とおけば、$U_n$ は対称であり、$U_n \circ U_n \circ U_n \subseteq U_{n-1} \cap B_n$ を満たす。
(2) 離散的な擬距離 $g$ の定義: 各ペア $(x, y)$ に対し、関数 $g: X \times X \to \mathbb{R}$ を次のように定める:
$(x, y) \in U_{n-1} \setminus U_n$ のとき $g(x, y) = 2^{-n}$。
すべての $n$ について $(x, y) \in U_n$ のときは $g(x, y) = 0$。
※ $g$ は対称であるが、三角不等式を満たすとは限らない。
(3) 三角不等式を満たす距離 $d$ の構成(鎖による下限): 任意の2点 $x, y$ 間の距離 $d(x, y)$ を、有限個の点を経由する $g$ の和の下限として定義する:
$$ d(x, y) = \inf \left\{ \sum_{i=1}^k g(z_{i-1}, z_i) \;\middle|\; z_0 = x, \dots, z_k = y, k \ge 1 \right\} $$
これにより、$d$ は構成から明らかに三角不等式 $d(x, z) \le d(x, y) + d(y, z)$ を満たす。
(4) $d$ が元の一様構造と位相を正しく誘導すること:
いわゆる「連鎖の補題 (Chain Lemma)」により、任意の $(x, y)$ に対して $d(x, y) \le g(x, y) \le 2 d(x, y)$ が成り立つことが(2進展開に基づく帰納法で)示される。これより、
$U_n \subseteq \{(x, y) \mid g(x, y) \le 2^{-n}\} \subseteq \{(x, y) \mid d(x, y) \le 2^{-n}\}$
$\{(x, y) \mid d(x, y) < 2^{-(n+1)}\} \subseteq \{(x, y) \mid g(x, y) < 2^{-n}\} \subseteq U_n$
が成立するため、距離 $d$ が定める近縁系と $\{U_n\}$(したがって $\{B_n\}$)は互いに包含し合い、一様構造が完全に一致する。
最後に、誘導される位相がハウスドルフであるため、$\bigcap_{n=1}^\infty U_n = \Delta$(対角線のみ)となる。したがって $x \neq y \implies g(x, y) > 0 \implies d(x, y) > 0$ となり、$d$ は単なる擬距離ではなく完全な距離関数である。 $\blacksquare$
3. コンパクト空間における性質
定理3: コンパクト性と完備性
定理
一様空間 $(X, \mathcal{U})$ がコンパクト位相空間であるための必要十分条件は、$X$ が「完備 (complete)」かつ「全有界 (totally bounded)」であることである。
証明
(コンパクト $\implies$ 完備かつ全有界):
・全有界性:任意の $U \in \mathcal{U}$ に対して、$V \circ V \subseteq U$ なる開近縁(内部をとったもの)$V$ をとる。$\{V[x]\}_{x \in X}$ は $X$ の開被覆となる。コンパクト性より、これは有限部分被覆 $\{V[x_1], \dots, V[x_n]\}$ を持つ。よって $X = \bigcup_{i=1}^n V[x_i]$ となり全有界。
・完備性:任意のコーシーフィルター $\mathcal{F}$ をとる。コンパクト空間において、任意のフィルターは少なくとも一つの集積点 $x$ を持つ。コーシーフィルターの性質(任意の近さの基準を満たす元が含まれる)より、集積点を持てばその点 $x$ に収束せざるを得ない。よって完備である。
(完備かつ全有界 $\implies$ コンパクト):
位相空間がコンパクトであることを示すには、「任意の超フィルター (Ultrafilter) が収束する」ことを示せばよい。$X$ 上の任意の超フィルター $\mathcal{U}^*$ をとる。
これがコーシーフィルターであることを示す。任意の $W \in \mathcal{U}$ に対し、$V^{-1} \circ V \subseteq W$ なる対称な $V \in \mathcal{U}$ を選ぶ。全有界性より、ある有限個の点 $\{x_1, \dots, x_n\}$ が存在し、$X = \bigcup_{i=1}^n V[x_i]$ となる。
超フィルターの強力な性質(有限和が全体を覆うなら、少なくとも一つはその超フィルターに属する)により、ある $k$ が存在して $V[x_k] \in \mathcal{U}^*$ となる。
ここで、任意の $y, z \in V[x_k]$ をとると、$(x_k, y) \in V \implies (y, x_k) \in V^{-1}$ であり、$(x_k, z) \in V$ である。推移性より $(y, z) \in V^{-1} \circ V \subseteq W$ となる。すなわち $V[x_k] \times V[x_k] \subseteq W$ である。
これは $\mathcal{U}^*$ が $W$ よりも「細かい」元 $V[x_k]$ を持つことを意味し、$\mathcal{U}^*$ はコーシーフィルターである。完備性の仮定により、このコーシーフィルター $\mathcal{U}^*$ は収束する。超フィルターが常に収束するため、$X$ はコンパクトである。 $\blacksquare$
定理4: コンパクト・ハウスドルフ空間における一意性
定理
位相空間 $(X, \mathcal{O})$ がコンパクト・ハウスドルフ空間であるとき、$\mathcal{O}$ を誘導するような $X$ 上の一様構造 $\mathcal{U}$ は**一意に定まる**。具体的には、対角線 $\Delta$ の「すべての開近傍」からなるフィルターそのものになる。
証明
$\mathcal{V}$ を元の位相 $\mathcal{O}$ を誘導する任意の一様構造とする。また、$\mathcal{U}$ を直積位相における対角線 $\Delta$ のすべての近傍からなるフィルターとする。
Step 1: $\mathcal{V} \subseteq \mathcal{U}$ の証明
$\mathcal{V}$ の任意の元 $V$ は、一様空間の性質から各点 $x$ において $V[x]$ が開近傍を含むため、直積位相においても $\Delta$ の開近傍を含む。よって定義より $V \in \mathcal{U}$ である。ゆえに $\mathcal{V} \subseteq \mathcal{U}$。
Step 2: $\mathcal{U} \subseteq \mathcal{V}$ の証明
任意の $W \in \mathcal{U}$ をとる。$W$ は $\Delta$ の開近傍であるため、各 $x \in X$ に対して $(x, x) \in O_x \times O_x \subseteq W$ となるような $X$ の開集合 $O_x$ が存在する。
$\mathcal{V}$ は位相 $\mathcal{O}$ を誘導するため、各 $x$ について $V_x[x] \subseteq O_x$ となる近縁 $V_x \in \mathcal{V}$ がとれる。推移性と対称性から、$U_x \circ U_x \subseteq V_x$ となる対称な近縁 $U_x \in \mathcal{V}$ を選ぶ。
ここからがコンパクト性の出番である。開被覆 $\{U_x[x]\}_{x \in X}$ は $X$ を覆うため、有限部分被覆 $X = \bigcup_{i=1}^n U_{x_i}[x_i]$ を持つ。
有限交叉性から $U = \bigcap_{i=1}^n U_{x_i}$ とおくと、$U \in \mathcal{V}$ である。この $U$ が $W$ に含まれることを示す。
任意の $(a, b) \in U$ をとる。ある $k \in \{1, \dots, n\}$ に対して $a \in U_{x_k}[x_k]$ である。$U \subseteq U_{x_k}$ より $(a, b) \in U_{x_k}$。推移性より $b \in U_{x_k} \circ U_{x_k}[x_k] \subseteq V_{x_k}[x_k] \subseteq O_{x_k}$。
また $a \in U_{x_k}[x_k] \subseteq V_{x_k}[x_k] \subseteq O_{x_k}$ でもある。
したがって $(a, b) \in O_{x_k} \times O_{x_k} \subseteq W$。よって $U \subseteq W$ となり、上方閉性から $W \in \mathcal{V}$ である。したがって $\mathcal{U} \subseteq \mathcal{V}$。
以上より $\mathcal{U} = \mathcal{V}$ となり、一様構造は一意に定まる。 $\blacksquare$
4. ファイン一様構造の存在と普遍性
一般の空間では、同じ位相を誘導する一様構造は無数に存在し得ます。しかし、距離化可能な空間を含む「完全正則空間」においては、それら全ての一様構造を包み込む「最強の」一様構造が存在します。
定理5: 最強の一様構造(ファイン一様構造)の存在
定理
完全正則空間 $(X, \mathcal{O})$ 上には、位相 $\mathcal{O}$ を誘導する一様構造の中で「最強のもの(最も細かい, finest)」である一様構造 $\mathcal{U}^*$ がただ一つ存在する。
証明
Step 1: $\mathcal{U}^*$ の構成
$\mathcal{D}$ を、直積位相に関して連続な「$X \times X$ 上のすべての擬距離 $d$」の集合とする。各 $d \in \mathcal{D}$ と実数 $\epsilon > 0$ に対して、$V_{d, \epsilon} = \{(x, y) \mid d(x, y) < \epsilon\}$ を考える。
これらすべての $V_{d, \epsilon}$ の有限個の共通部分を基本近縁系とする一様構造を $\mathcal{U}^*$ と定義する。すなわち、
$$ \mathcal{B}^* = \left\{ \bigcap_{i=1}^n V_{d_i, \epsilon_i} \;\middle|\; n \in \mathbb{N}^+, d_i \in \mathcal{D}, \epsilon_i > 0 \right\} $$
$\mathcal{B}^*$ は一様空間の公理(有限交叉性、推移性など)を満たすため、ある一様構造 $\mathcal{U}^*$ を定める。
Step 2: $\mathcal{U}^*$ が元の位相 $\mathcal{O}$ を誘導すること
$\mathcal{U}^*$ から誘導される位相を $\mathcal{O}^*$ とする。
(i) $\mathcal{O}^* \subseteq \mathcal{O}$: $d \in \mathcal{D}$ は $\mathcal{O} \times \mathcal{O}$ に関して連続であるため、$x$ を固定した $V_{d, \epsilon}[x]$ は $\mathcal{O}$ の開集合である。よって $\mathcal{O}^*$ の開集合は $\mathcal{O}$ の開集合から生成されるため、$\mathcal{O}$ より弱い。
(ii) $\mathcal{O} \subseteq \mathcal{O}^*$: 任意の $O \in \mathcal{O}$ と $x \in O$ をとる。$X$ は**完全正則空間**であるから、連続関数 $f: X \to [0, 1]$ で $f(x) = 0$ かつ $f(X \setminus O) = 1$ なるものが存在する。ここで $d_f(y, z) = |f(y) - f(z)|$ と定義すると、$f$ の連続性より $d_f$ は連続な擬距離であり、$d_f \in \mathcal{D}$ である。このとき $V_{d_f, 1}[x] = \{y \mid |f(x) - f(y)| < 1\} = \{y \mid f(y) < 1\} \subseteq O$ となる。これは $O$ が $\mathcal{O}^*$ においても開集合であることを意味し、$\mathcal{O} \subseteq \mathcal{O}^*$。
以上より $\mathcal{O} = \mathcal{O}^*$。
Step 3: $\mathcal{U}^*$ が「最強」であること
位相 $\mathcal{O}$ を誘導する任意の一様構造を $\mathcal{U}$ とする。$\mathcal{U} \subseteq \mathcal{U}^*$ を示せばよい。
任意の $V \in \mathcal{U}$ をとる。定理2のアレクサンドロフ・ウリゾーンの証明と同様の手法を用いることで、$V$ に含まれるような $\mathcal{U}$ 上の「一様連続な」擬距離 $d_V$ を構成することができる($V_{d_V, 1} \subseteq V$)。
$d_V$ は一様連続であるから、当然ながら誘導される位相 $\mathcal{O}$ に関しても連続である。したがって $d_V \in \mathcal{D}$ である。
すると、定義より $V_{d_V, 1}$ は $\mathcal{U}^*$ の元である。上方閉性により、それを含む $V$ も $\mathcal{U}^*$ の元となる。ゆえに $\mathcal{U} \subseteq \mathcal{U}^*$ が示され、$\mathcal{U}^*$ は最強の一様構造であることが完全に証明された。 $\blacksquare$
定理6: ファイン一様構造の普遍性 (Universal property)
定理
$(X, \mathcal{U}^*)$ を完全正則空間上のファイン一様空間とし、$(Y, \mathcal{U}_Y)$ を任意の一様空間とする。
このとき、任意の**連続写像** $f: X \to Y$ は、自動的に**一様連続**となる。
証明
$Y$ の任意の近縁 $W \in \mathcal{U}_Y$ をとる。一様連続性を示すには、$(x_1, x_2) \in U \implies (f(x_1), f(x_2)) \in W$ となる $X$ の近縁 $U \in \mathcal{U}^*$ を見つければよい。
定理5のStep 3と同様に、$W$ に対応する $Y$ 上の一様連続な擬距離 $d_W$ が存在し、$\{(y_1, y_2) \mid d_W(y_1, y_2) < 1\} \subseteq W$ とできる。
ここで、$X$ 上の実数値関数 $d_X: X \times X \to \mathbb{R}$ を合成を用いて次のように定義する:
$$ d_X(x_1, x_2) = d_W(f(x_1), f(x_2)) $$
$f$ は仮定より連続であり、$d_W$ も連続であるため、合成関数である $d_X$ は $X$ 上の連続な擬距離となる。したがって $d_X \in \mathcal{D}$ である。
$\mathcal{U}^*$ の定義から、$U = \{(x_1, x_2) \mid d_X(x_1, x_2) < 1\} \in \mathcal{U}^*$ である。
この $U$ を用いると、$(x_1, x_2) \in U \implies d_X(x_1, x_2) < 1 \implies d_W(f(x_1), f(x_2)) < 1 \implies (f(x_1), f(x_2)) \in W$ が成り立つ。
条件を満たす近縁 $U$ が取れたため、$f$ は一様連続である。 $\blacksquare$
補足:普遍性の意義
定理6は非常に強力な結果です。通常、連続関数は局所的な性質であり、一様連続性はより厳しい大域的な性質です。しかし、定義域が「ファイン一様空間」であれば、単に連続であるだけで、自動的に一様連続性が保証されます。これは、ファイン一様構造 $\mathcal{U}^*$ が、位相空間としての連続性を破らないギリギリのラインまで、あらゆる「近さの基準」をすべて採用した究極の構造であるためです。